ヘンリーで活躍中の id:Songmu を訪問 | はてな卒業生訪問企画 [#3]

こんにちは、エンジニアリングマネージャーの id:onkです。

Hatena Developer Blogの新たな連載企画「卒業生訪問インタビュー」では、創業からはてなの開発に関わってきた取締役の id:onishi、CTOの id:motemen、エンジニアリングマネージャーの id:onkが、いま会いたい元はてなスタッフを訪問してお話を伺っていきます。

id:onkが担当する第3回のゲストは、クラウド型電子カルテ・レセコンシステム「Henry」を主力として医療DXに取り組んでいる株式会社ヘンリーで、チーフエンジニアとして新たな挑戦を始めたid:Songmuさんこと、松木雅幸さんです。

株式会社カヤックでリードエンジニアとして活躍後、2014年9月にはてなに入社。チーフエンジニア及び「Mackerel」のプロダクトマネージャーとして、2019年5月まで「Mackerel」の開発をはじめ、エンジニア採用や育成、技術選定・技術広報にいたるまで幅広くご活躍いただきました。

はてな卒業後は、スマートリモコンや電力関連事業を展開するNature株式会社で取締役CTO、機械学習を用いてテストを効率化するソフトウェアサービスを提供するLaunchableでプリンシパルソフトウェアエンジニアを務めてきました。

2023年1月に株式会社ヘンリーに入社したばかりのid:Songmuさんが、「YAPC::Kyoto 2023」で京都にいらっしゃったタイミングに合わせて、お話をお伺いしました。ヘンリーさんでの近況やマネジメントやチーム作り、これまで経験された会社それぞれの特徴やはてなとの違いについてなど、いろいろお話を伺いました。

松木雅幸さん(id:Songmu) / 株式会社ヘンリー チーフエンジニア
2014年-2019年 はてな在籍

ヘンリーに入社したばかりのid:Songmuさん

id:onk(以下「id:onk」) 昨日YAPCで会ったばかりですが、今日もよろしくお願いします。

id:Songmu(以下「id:Songmu」) よろしくお願いします。

昨日ぶりに再会した id:onk(左)と id:Songmu(右)

id:onk まずは入社したばかりのヘンリーさんでの担当プロジェクトや近況について聞かせてください。

id:Songmu 入社して3か月経ったところで、最近は電子カルテでリハビリの記録を取れるようにするための開発を担当しました。ちょっと大きめのマイルストーンが終わって、現場のエンジニアとして開発業務を一通り体験できたところです。

入社2週間のころに書かれたSongmuさんのエントリー
ヘンリーに入社しました | おそらくはそれさえも平凡な日々

マイクロサービス的なコンポーネントがいくつかあって、僕は電子カルテのバックエンドのマイクロサービスを担当しています。バックエンドはKotlinで書いています。他にはTypeScriptで書かれたNode.jsのBFFがあってバックエンド群とはProtobuf、フロントとはGraphQLで通信しています。フロントはReactとTypeScript。わりとモダンなかんじのアーキテクチャですね。

クラウドはGCPでアプリケーション実行環境にはCloud Runを使っていて、そのあたりは初挑戦です。GCPもKotlinも僕にとっては初めての技術なので学ぶのは楽しいし、転職してよかった点だなと思っています。

ヘンリーはスタートアップで人事担当者もまだ少ないので、カジュアル面談及び面接、書類選考といった採用活動もやっています。4月以降は前職以前にやっていた採用の知見や仕組みも取り入れていきたいですね。

speakerdeck.com

各社のオンボーディング

id:onk ヘンリーさんでのオンボーディングではどういったことをされたんですか?

id:Songmu Notion上に事前にオンボーディングシートが用意されていて、そこのチェックリストをこなしていきました。ヘンリーは電子カルテとかレセプトコンピュータなど、ドメイン知識が難しい業界なので、そのあたりは社内外の資料を読んでインプットしました。事業計画や投資家向け資料も整理された状態で社内公開されていて、キャッチアップしやすかったのも良かったです。とはいえまだわからないことだらけですが。

id:onk Launchableさんのオンボーディングがいいという話を聞いたことがあるんですが、どういった点がよかったのか知りたいです。

id:Songmu これは現職でもやっていることですが、入社して最初にやるべきことや読むべきことがオンボーディングチェックリストで明確に示されているのは良かったですね。あとは自己紹介や自分のユーザーマニュアルをまず書くのが良かったです。これは、アトラシアンが公開しているConfluenceのテンプレートがあり、それをベースにしたテンプレートが活用されていました。

「ユーザーマニュアル」テンプレート | Atlassian

具体的には、それぞれが自分の働き方のスタイルやどの時間に集中しているか、フィードバックを受けるときはどういう形でフィードバックされたいかといった質問項目に回答し、それを社内Wikiページとして公開するのです。これは良い取り組みなので現職にも取り入れたいと思っています。(インタビュー後の4月に取り入れました)

id:onk それ、良さそうですね。マネしたい。

id:Songmu 人となりを知る自己紹介だけじゃなく、業務に役立つ自己紹介がオンボーディングに含まれているのはいい文化ですよね。

id:onk 海外のスタートアップでは主流の文化なんでしょうか。

id:Songmu 会社によるとは思いますが、GitLabや37signalsのようにリモート志向の会社は同様のことをやっているかもしれませんね。

さまざまなアウトプット

id:onk アウトプットの話がでましたが、今日Songmuさんには、はてなとこれまでの企業でのアウトプットの違いを聞きたいなと思っていました。

id:Songmu はてなは「文章で書き残す」というカルチャーが根付いていますけど、その中で特徴的なのは、仕事に必要な業務上のログだけじゃなくて、「自分の思いや考え」もアウトプットして書き残している点ですよね。

Natureでは、「Kibela」というナレッジマネジメントツールで社内の情報ソースは書いていたけど、あまり自分の思いを書く文化はなかった。まだ人数も少なかったから、そういうことは直接話せていたことが理由だと思いますが、僕自身もそういう文化を根付かせられなかったかな。

その後に入社したLaunchableでは、リモート中心だったので文章に起こす文化もありました。ナレッジやノウハウの共有には「Confluence」を使っていたのですが、個人ブログスペースの機能もあったのでそこに思いを書く人もいました。

ヘンリーではナレッジベースとして「Notion」を使っています。Natureで思いや考えを書く文化を根付かせられなかったという心残りがあったので、ヘンリーに入ったときに「ポエム置き場はないんですか?」って聞いて、なさそうだったので、そういう場所を作ることにしました。具体的にはNotion上に社内ブログ用のデータベースを作り、そこに誰かが記事を追加したら社内のSlackに通知されるようにしました。「ポエム」って呼び方は適切じゃないのかもしれないけど。仕事に関するまとまったストック情報ということではなくて、思いや考えを書く場所、ですね。

id:onk はてなでも長らく「ポエム」という言葉で呼ばれていますけど、あんまり適切じゃないというのを僕も感じているので、最近は「エッセイ」って呼ぶようにしています。

エッセイがもたらすもの

id:onk ヘンリーさんではエッセイが増えるような働きかけをされているわけですが、その背景にあるSongmuさんの考えについて伺いたいです。

id:Songmu ヘンリーでは「社内ブログが蓄積されて無形の力が集まると社内の文化醸成になるし、今後組織を拡大していく中で、新しい人も社内の雰囲気がつかみやすくなっていいと思う」みたいな話をしました。

メンバーそれぞれの思いやモチベーションの源泉がどこにあるのかを理解してコラボレーションしやすくすることは大事なので、根付かせたいと思ってます。一緒に働いている人たちがどんなモチベーションや考え、アイデアを持って仕事をしているのかがわかると仕事もしやすくなるし、もっと面白い事業ができる可能性も生まれる。そういったことがあって文章を書き残す文化づくりをやりたかった。

ただそれは一つの手法でしかないし、人によって好き嫌い、得手不得手がある。飲みに行って交流を深めるというやり方が得意な人はそうしたらいいし、そういう思いを書くことが得意であればやればいい。会社の中でやる・やらないというのも自由だとは思います。

一方で、コロナ禍でリモートにシフトしていく中ではそれぞれが文章に書き起こすことやそのスキルの重要性が上がってきましたよね。新しく会社に入ると、リモートで会社の風土や雰囲気をつかむのは難しいので、メンバーが書いている文章があると雰囲気をイメージしやくなる利点もあると感じています。

ヘンリーでは、経営陣や他の人もちょこちょこ社内ブログを書いてくれるようになったし、盛り上がってきました。乗っかってくれて嬉しく思っています。経営や管理職とかがきっちりとしたものを書こうとしすぎると、面白みがなくなるし、書くハードルが上がっていっちゃうので、僕も定期的に何か書いていこうかなと思っています。書くハードルが下がると、現場の人が持っている課題意識や取り組みのアウトプットも促進されて、他部署の様子や意欲が伝わってくるので、そのメリット部分をもっと広めていきたいですね。

企業やチームの規模とモチベーションの関係性はあるか

id:onk はてなは、そういうエッセイも含めて、書くハードルが高すぎないし、その分おもしろいものをいろんな人が書いてくれるのはいい文化ですよね。一方で、いわゆる「ちゃんとした情報」の整理みたいなものには課題があると思ってます。情報はいろいろあるけど、整理して与えられる情報は少なくて、それが生産性を下げてるんじゃないかという疑義があります。

id:Songmu メンバーのスキルが高いので、一応会社としては健全な利益が出ているけど、チームのポテンシャルに比べたらもっと生産性が上がるだろうというのは同意です。そこで満足してほしくはないですよね。

id:onk id:shiba_yu36さんは、意思決定の速度が全然違うといった話をしていましたね。

アンドパッドで活躍中の id:shiba_yu36 を訪問 | はてな卒業生訪問企画 [#2] - Hatena Developer Blog

id:Songmu たしかにアクセルの踏み方が慎重だなと思っていました。はてなは昔からのサービスでどのプロダクトも複雑なので、みんながそれなりの思いを持っているし、いろいろな意見を言う人がいるから、そこでリーダーシップを発揮するのが難しいところがありますね。

id:onk はてなは22年やっている企業で、Songmuさんが転職した先は全部スタートアップ企業。スタートアップとはてなの違いは何でしょう?

id:Songmu 僕が経験してきたスタートアップとはてなの大きな違いは、シングルプロダクトかマルチプロダクトかということ。シングルプロダクトを展開するスタートアップでは、会社の目標がプロダクトの目標とほぼ一致するので、同じ方向を向いて舵を取りやすいんですね。

はてなはいろいろなプロダクトがあるなかでどうバランス取るか、スキームとメンバーの相性をどう合わせるかなど、いろいろな思惑が発生したりする。また、歴史が長い会社はどうしても暗黙のコンテキストが増えてしまう部分があるので、後から入った人がどう食い破っていくのか難しいところはありますね。

id:onk はてなはいろいろなプロダクトがあるし、その中で小さいチームもあれば、一プロダクトに何十人もいるチームもありますよね。チームの規模によってもメンバーのモチベーションに違いがありますか?

id:Songmu 個人的には、チームは小さい方が火つけ役の影響を受けやすいだろうなと思っています。僕はスタートアップ創業者が持っている空気や熱量が好きだし、そういう人と一緒に働きたい。たまに理不尽なことも言ったり、周りが全然見えてなかったり、前しか向いてなくても、やりたいという思いと勢いみたいなものが強い人がそばにいると、前進できる。僕はそういう環境を求めている面があります。

id:onk Songmuさんは「Mackerelをこうしたい」という意思をチーム内に浸透させていて、めちゃくちゃ火つけ役をやっていたと思います。ただ、同じように熱量MAXの人をはてなで育成するのって難しいですよね。マルチプロダクトのバランスや、いろいろな思惑に翻弄されるところがある。どうやったらできるんだろうって考えています。

「趣味沼にハマるエンジニア」の取材を受けたときの「自転車沼」の id:Songmuさん
(2017年 撮影:刑部友康 )

id:Songmu そういう熱量がある人に近づけて、うまく着火させることじゃないでしょうか。僕自身、実はあまり自燃できる人間ではないので、自分で燃えられる人と一緒に燃えたいなって思います。

はてなはチームがローテーションするので、同じプロダクトにずっと関わり続けられないというのも要因の一つとしてあるかもしれないですね。

僕がMackerelをやっていたときは、Mackerelはライフワークみたいな気持ちでやっていたし、はてなにいるんだったらずっとMackerelでやっていきたいと思っていました。Mackerelが始まったころに入っているから熱量もあったし、実際はてなの収益を上げる主力サービスに成長していった。自分のプロダクト感をどう強めてもらうかというのは課題としてあると思います。

id:onk 異動が熱量とのトレードオフになっているのは確かに。異動しながらも自分のプロダクトと思ってがんがん強くしていけると強いんですけどね。

id:Songmu もちろん人が入れ替われるようにしておかないと、チームとして弱くなってしまう面もあるし、あるプロジェクトでマッチしなかった人が他のプロジェクトでは輝くみたいなこともあるので、異動も大事な仕組みです。なにより、はてなは結果としてみんな長く楽しそうに働いている。そこはいいところですよね。

id:onk 約5年という勤続年数にも表れていて、はてなの特徴的なところですね。

エンジニアマネジメントの難しさと意識変化

id:onk 話は変わりますが、Songmuさんはエンジニアのマネジメントに対して「こういうところが難しい」とか「もっとこうしたい」と感じることはありますか?

id:Songmu はてなでMackerelのプロダクトマネージャーをやっていたころは、葛藤を感じることはありましたね。はてなのエンジニアって「何でも必要だったらやりますよ」といういい人が多いし、技術的にとがった人も多い。「あんまりマネジメントなんかやってほしくないんだろうな、でもそう思っちゃいけないよな」みたいなところでモヤモヤすることがありました。

でも、昨日おとといYAPCで会ったid:taraoさんはまさに技術の人と思っていたんだけど、Backyard Hatenaの話を聞いていると、エンジニアリングマネージャーを結構楽しそうにやっている。id:yigarashiさんのようにエンジニアリングマネージャーとして力を発揮したいという、最初からハッカーであることにこだわりがない世代も出てきた。そこはすごく面白いですね。

id:onk エンジニアリングマネージャーという職種を作ったのは、最近の大きな変化ですね。事業の成功のために、メンバーやチームの成長を意図して起こしながら開発チームのエンジニアリングを行う役割。この職種がキャリアトラックに存在すると位置付けた。

id:Songmu 一方で、各エンジニアがプロダクトやビジネスとかに対してもっと興味を持てると、さらに視座が上がると思うのですが、そこはきっかけを与えきれていないと感じる面もあります。

id:onk はてなのエンジニアは守られているというか、そういうプレッシャーやビジネスの緊張感を見せないようにしているところがありますね。

id:Songmu 今作っているプロダクトが、自分のプロダクトなんだと実感できると一番いいのですが、東京と京都というロケーションの違い、ディレクターやプロデューサーと比較してユーザーの声や要望といった情報格差が生まれることもありますね。ここでもエンジニアのローテーションが影響しているかもしれない。

肩肘張らない情報発信を継続している

id:Songmu はてなは最近Backyard Hatenaとか、あとブログとか頑張っていますよね。もともと発信できる人たちが集まっていると思っていたけど、ちょっと戦略的な手を入れるだけで、こんなに良くなるんだなと。はてならしい力の抜けた感じがちゃんとキープできているのもいいですね。

最近の界隈の風潮として、肩肘張った発信やかっこつけ気味の発信が多くなってきたようにも感じますが、はてなはとにかく発信し続ければ、何か良いフィードバックがあるだろうというゆるいスタンスでやっている。そういう性善説的なノリが今後も通じるかわからない部分はあるけど、そういうのを信じたいし、応援したいですね。

id:onk 実は発信量を維持するだけで必死だったので、良くなっていると言われてうれしいです。

id:Songmu Backyard Hatenaやブログを意識して書き続けるために、onkさんはちゃんとけしかける側だと思うので。Backyard Hatenaで、id:masawadaさんが「頑張りすぎない、欲張りすぎない、続けることがとにかく目標」みたいなことを言っているのを、僕としてはすごく好ましいなって聞いていました。

はてなのポッドキャスト Backyard Hatena #20 - Backyard of Backyard Hatena(id:masawada) #byhatena - Hatena Developer Blog

id:onk Backyard Hatenaは完全にいい取り組みだと思ったので、2~3回で終わってしまうようなやり方をしたくなかった。一回つぶれると、次に立ち上げるときは途絶えた原因解析から継続のための対策を検討することに時間を取られてしまうので、特に初年度は維持を目的にしました。今後も燃え尽きて場が無くなるのを避けつつ継続していきたいです。

id:Songmu トータルで続けられるかどうかが大事ですよね。僕自身もブログやOSS活動などで、ある時期はすごくやっているし、やっていない時期もあるけど、トータルでは継続している。とにかく、続けていることが大事だなってすごく思うし、そういう力の抜けた発信を今後もぜひ継続していってください。

いまのはてなはどう見える?

id:onk 「外から見たはてなはどう見えますか?」という定番の質問です。

id:Songmu 良くも悪くもあんまり変わっていないですね。もう一発何か当ててほしいです。外から見てもはてなのエンジニアはとても優秀だと思うし、その価値をもっと活かしてほしい。満足して働いている人も多いので、そういうナレッジももっと広めてほしいですね。

あと、株式市場でもっと評価されるようになって欲しいし、会社もそれをもっと意識して行動して欲しいという気持ちもちょっとあるかな。ちゃんと黒字を出しているし、安定的に成長し続けているけど、マーケットからの期待値が低いのは残念なことなので、今あるプロダクトポートフォリオだけじゃなくて、新規事業とかでバーンと跳ねる動きをしてほしいと思っています。

最近「両利きの経営」という本を読んだのですが、既存事業と新規事業に対するマネジメントが全く異なる中で、それをどのように両立させるか、という本でした。既存事業と新規事業ではアクセルとブレーキの踏み方、走り方が異なりますが、はてなはそのあたりの走り方が中途半端にも見えています。

id:onk 良くも悪くも延長線すぎるのかな。

id:Songmu はてなはもともと京都の会社だから、東京の雰囲気にのまれずにのんびりできる部分があるし、新規サービスを立ち上げやすい部分もある。その牧歌的で発信できる強み、2000年代のインターネットの良さと楽しさを活かした最近の発信のように、何かやってほしいです。

id:onk 2000年代のいいところをより抽出したような新サービス?いいですね(笑)。新規事業については当然狙ってないことはないので、期待してください!

id:Songmuさん、ありがとうございました!



id:Songmuこと松木さん、ご協力ありがとうございました!次回の「はてな卒業生訪問企画」は2023年6月更新予定、担当はid:onishiです。